「ええぇえええぇぇえええぇえぇえええぇえええ!」
















「藤村先生、遠吠えは勘弁してください」
「そっ、それよりどういう事なのよぅ! 士郎に妹が居るなんて聞いてないわよ! しかも士郎と交換みたいな形で来たって言うの!?」
「士郎本人も知らなかったみたいですし、当たり前でしょう。それに、士郎はもう少し向こうで生活したいと言っているようですし、そこは男の人が大半だそうです。そこに女の子一人放り込むのは大変でしょう」

 ぐわー、と喚き散らす藤ねぇを遠坂が迎撃する。流石だ遠坂、嘘を正論で通している。しかし今回は俺が居ないストレスが溜まっているのか、藤ねぇも中々引き下がらない。

「それにっ、年齢幾つかって言えば士郎と同い年じゃない! なによそれ! 双子って言うの!? 二人でプリキュ」
「藤村先生! 落ち着いて下さい。まずはきちんと座りましょう」

 まぁ、そんな藤ねぇの顔面が俺の目の前にあるわけである。目の前で大音量でがんがん叫ばれるこっちの身にもなってくれよ藤ねぇ。
 この中で暴走藤ねぇを相手に出来る人間は遠坂しかいない。桜は昔から藤ねぇの言う事は色々と聞いていたし、ライダーなんて藤ねぇと会って2日足らず。目の前で咆哮する虎をどうにか静めて下さい一休さん。
 そんな事を考えて絶望に浸っていると、藤ねぇの隣に座る遠坂が矢鱈と視線を飛ばしてくるのに気付く。ん、なにさ?
 頭の中に疑問を巡らせていると、隣に座る桜が肘で小突いて来て、耳元へ口を寄せる。

(先輩先輩。ほら、言われてた通りやって下さい)
(あぇ? あ、悪い悪い。忘れてなんかいないぞ忘れてなんか)

「ちょっと桜ちゃんまで聞いてる!? 一体なんで士郎に妹なんて居るの! 桜ちゃんもいるのに妹なんて、どれだけ士郎は豪の者なのよぅ!」
「す、すいません。でも、確かに士郎とは兄妹です」
「上目遣いで言っても無駄! 私はそんな言葉に騙され」
「……血は、繋がってないんですけど」

 まるで照明が落ちたかのように、虎が怯んだ。
 あれ、俺は確かに教えられた事をしただけだけど。えぇと、遠坂曰く。

『士郎、私が合図したら今から言う事をするのよ。良い? まずは一つ謝って、謝りながらも自分は衛宮士郎と兄妹だと言い切る。戸籍だってあるんだから、藤村先生も実際分かってる。まぁ、これだけで止められるとは思ってないから、次。血縁関係は無いと言う。いいえ、逆効果でも何でもないわよ。ただその時に、元気が無い風に俯き加減で言うのがコツよ。それさえ出来れば後は私がカバーしてあげるわ』

 嘘を吐くのは良い気分ではない。しかも姉である藤ねぇに、それはもう大嘘を吐くのだ。











―――――――そんなの良いわけが、ない。











「藤ねぇ」
「へ?」
「俺は今結構大変な事になってるけど、こっちはこっちで頑張ってるんだ。安心してくれよ、いつまでも子供じゃないんだから。言っとくけどライガさんに頼んで探させるんじゃないぞ。そんなことに使われる人が可哀想だろう。今度美味い飯でも作ってやるから、それまで我慢しててくれ。それにこう言うのもあれだけど、藤ねぇの事結構頼りにしてるんだからな」
「ちょっ! 士、志保っ!」
「し、ろう?」

 藤ねぇが呆けた顔で俺の名前を呼ぶ。罪悪感で胸がいっぱいになる。
 しかし、今回ばかりは藤ねぇに頼る事にしよう。迷惑持ち込んで放っていく藤ねぇにはこのくらいの嘘でチャラにしてもらいたい。

「そう伝言を預かった。藤ねぇ達によろしくって」
「……ぁ」

 誰の口から出た声だろうか、軽い吐息のような声。その場が、軽く静まった。遠坂や桜まで驚いている。確かに何の打ち合わせもなく突然の暴挙だったかもしれないけど、そこまで固まること無いじゃないか。
 何だか居心地の悪さを感じる。視線がキョロキョロと落ち着かない。何だか誰も口を開きそうに無かいから、仕方なく口を開く事にした。

「えぇと、結局どうなったのかな」








‡‡‡‡‡








 結果、士郎は藤村先生に認められたと言っていいのだろう。志保は士郎なんだから士郎に似てないと言えば嘘になる。それに、今回は士郎が上手いことやってくれた。
 というか、見事な騙まし討ちだ。士郎め、打ち合わせに無いことをするなんて。あの場でガンド撃ち込もうかと思ったじゃない。
 私にだって、志保に士郎がだぶって見えた。それは士郎なんだから当たり前の事何だけど、それでも志保は意外なまでに士郎に見えた。長年士郎の面倒を見てきた、いや、士郎に面倒を見られてきた藤村先生なら余計それは感じただろう。
 だけど、それは逆に士郎に会いたくなるのではないかと思った。そう、思ったのだ。そう、思ったのだが……!

「遠坂さーん、志保ちゃんて士郎の作るご飯とほとんど一緒なの。これはもう家族としか言えないわよぅ」

 夕飯を食べ終えてから、人の心配も他所にこんな感じである。この人の判断基準はご飯の味なのだろうか……?








‡‡‡‡‡








「ふふふ、これからも先輩と一緒に暮らしていく事が出来ます。桜は嬉しいです。それはもう嬉しいです。嬉しさのあまり先輩に抱きつこうとしたら姉さんにどつかれたのはご愛嬌です。よし、取り敢えず今日は布団の中でゆっくりと今後先輩とどう暮らしていくかをシュミレートしたいと思います。それはもうシュミレートしたいと思います。まず、先輩はいつものように土蔵で眠ってしまっているのです。私はそれを起こしに行きます。そこにはそのまま寝たのでしょう先輩があられもない姿で転がっていました。私は取り敢えずカメラ、いえ、先輩を起こす事にします。先輩を起こすと先輩は寝惚け眼で私を」



「ラアアァァイイィダアアッァアアァアアアアァアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアァアアァアア!!」
「何ですか桜」
「何でまた私の日記を朗読してるの! しかも進化したのか抑揚がついてる!」
「何でとは私が桜の事をよく理解するためです。場合となれば桜の手伝いも出来るでしょう」
「えっ、それはライダー」
「えぇ、勿論」








‡‡‡‡‡

















 玄関に、1つ封筒が投げ出されている。

 その封筒の内容は、学校への通学許可証。

 保護者氏名、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。

 一人、輝く剣を持った老人が、楽しそうに楽しそうに、その屋敷を眺めていた。




















Oh my sister



end