4000Hitを踏み、あまつさえリクエストしてしまい激しく後悔しているであろうフェスさんに捧ぐ











Medusa!












 俺が帰って来てから、変わった事が二つある。
 一つは、俺が女の子になってしまった事。もう一つはライダーが家に住むという事。
 そう、第三魔法でさえ押さえ切れなかった俺が生きてるのも大問題中の大問題なのだけれど、英霊であるライダーが未だに現界しているのも大問題なのである。しかも、バリバリの素顔なのである。正直危ないのではないかと問うたら、どうやら着けている眼鏡に魔眼殺しというモノが施されているらしい。
 何でも朝起きたら居間のテーブルの上に置いてあったという無造作且つ怪しさ極まりない一品だが、変な呪いがかけてあってもライダーなら大丈夫でしょうとのこと。
 それに、魔眼殺しなんてものは物凄い価値が高いらしい。怪しいけど勿体無いという結論のようだ。
 まぁ、誰がくれたかなんて想像がつくけど。くそぅ、ゼル爺、等価交換だって言うのに俺じゃ返せないような恩売るんだもんな。



―――――――あぁ、未だに英霊が現界してるだなんて事実が目の前にあったら、諦めきれないじゃないか



「志保、ここにいたのですね」
「あ、ライダー。どうしたんだこんな所まで」

 場所は公園。買い物帰りにふらっと誘われたように寄ってしまったのだ。しまった、ゆっくりしすぎたかな。
 恐らく凛か桜あたりに言われて、いや、もしかしたら腹を空かせた猛虎に吠えられて迎えに来たのだろう。何というか、俺の自由も少しくれないかなぁ。

「迎えに来たのか、ごめんな、すぐ帰る」
「……いえ、特に迎えに来たという訳ではありません」

 少しの間の後、ライダーはそう答えた。
 では、一体なんだというのだろう?

「ただ、志保の姿が見えないので探してみたのですが」
「探してみたって、こんな所までか?」
「ええ、迷惑でしたか」

 幾分か声に驚きの成分が含まれてしまう。恐らく家から俺探しは始まっていたのだろう、特に目的も無いのにだ。
 機械的で、冷静沈着。そんなイメージのあるライダーが特に決まった目的も無くぶらりと外に出るという事を、俺は意外に思っているのだ。ジーンズに黒のジャケットという外に出ても問題ない、そんな格好にも未だ慣れていない。
 ライダーは外に出ると何故か多数の視線を感じると嫌がっていたが、これでは確かに納得できる。普段家に居る時には意識しないが、改めて見ると恐ろしい程美人だと思う。

 ただ、そんなライダーが目的も無しに出かける。その行動が、妙に嬉しかった。

「どうしたのですか、志保。顔がにやけいますよ」
「あ、あぁ、少し考え事をしてたんだ。それよりライダー、座らないのか」

 ん、どうやら顔が自然に綻んでしまったらしい。それを指摘したライダーは目の前に立ったままなので、俺が座っているベンチの右隣をぽんぽんと叩いてみた。

「いえ、邪魔になるでしょう。ここに来たのは私の気紛れです」
「む、邪魔なんかじゃないぞ。俺を探しに来てくれたんだろ、そのまま帰られちゃ俺の居心地が悪くなる」

 俺を探しに来たのにそんな事を言うなんて、何かおかしいけれど、まぁ気にしない事にした。
 ライダーは少しの沈黙の後、では失礼しますと言い、俺の隣に腰掛けた。しかし、そのままじゃ何だか寂しい沈黙になってしまうな。
 あ、そうだ。左手側に置いていたスーパーの袋からタイヤキを取り出す。まるで探偵が死体の温度を確かめた時のように、まだ温かい、と確認。片方は口にくわえ、片方は曇った空を見たままライダーに差し出す。

「志保、これは……?」

 口にくわえているため、返事は出来ない。いや、しないというのが正しいか。
 なぜか分からないけれど、今は何故かそうするべきじゃないかと思った。何か察したのか、ライダーもそれ以上は発言せず、無言で受け取る。
 いや、それにしても甘いものは良いです。それはもう大好きですとも。

「美味しいです」

 ぽつりと、ライダーが呟いた。無表情な顔で呟いたその声は、どこか表情のついた人間の声だった。

「あぁ、桜の好物なんだ」

 そうですか、と相槌を打ち、再びタイヤキを食べる。
 桜からの魔力供給を受けているので本来ライダーには食事の必要は無いだろう。しかし、ライダーは何か今の雰囲気を読み取っているのか、黙々とタイヤキを食べる。

「少し前、ここでこうしてイリヤと同じような事をした」

 何故だか、考えるよりも先に口走っていた。

「志保は、後悔しているのですか?」
「分からない。だけど、他に方法があったんじゃないかって思うんだ。九を助けて一捨てるなんて、絶対に駄目な事なんだ」

 目の前で消えていった命、消してしまった魂。
 俺は、そんなものを望んでなんていなかった。

「志保は、優しいのです」
「え?」
「今このような状況になって、私はとても楽しいのです。桜が居て、凛が居て、志保が居る。志保が厨房に立ち、凛がそれにあれこれ口を出し、桜が手伝う。私はそれが嬉しい」
「ライダー」
「夢にまで見てしまうような、楽しい日々。私がこのように思える事は、曲がりなりにも志保、そして士郎の力によるものです。つまり怪物であるメデューサに幸せを与えたのです。それでも満足できませんか?」

 その声の柔らかみに驚き、ライダーを見る。
 そこには、笑って俺を見るライダーが居た。俺は、その笑顔を見て、あぁ、とても綺麗だなぁと客観的に思った。

「ライダー」
「何ですか、志保」
「自分の事を怪物と言うなんて笑えない自虐だし、今の顔を見て怪物だって言える人なんて、いない」

 気付けば、俺もライダーも、タイヤキを食べ終わっていた。











‡‡‡‡‡













 なんでこの人はそうなのでしょう。
 他人の幸せを第一に考え、自分の幸せを削る。私なんて、自分に幸福が無い事を嘆いていただけ。

 なんで、なんでこの人は、こんなに綺麗な笑顔を見せるのでしょう。

「ライダー?」

 視界がおかしくなっていることに気付きました。頬に何かが伝うのを感じました。

――――――自分が泣いている事に、気付きました。

 あぁ、私は泣いている。私は泣いている。
 自分のためではなく、この愚直で滑稽な正義の味方の事を思い、泣いているのだ。

「ラ、ライダー、どうしたんだ?」

 うろたえたような声。
 私はその声の主を、思い切り抱き締めました。ベンチに座っているので、頭だけ抱く感じになってしまいましたが、私はしっかりと抱き締めました。

「ラ、ライダー!」

 更にうろたえたような声。
 辛いのは、あなたでしょうに。

「志保、無理はしないで下さい。志保の存在自体が無理の塊なのですから」
「む、ライダー何気に酷いな。は、離してくれ」
「私は酷いのですよ。ですから、離しません」
「こ、こらライダー。桜に言うぞ」
「それは困りますね」

 少し残念と思いながら、腕の戒めを解き、志保を解放します。
 さて、私が泣くなど言語道断です。眼鏡に水滴がついてしまったではないですか。
 折角幸せになったのに、泣くなんて勿体無い。私はこれから、笑う事を思い出していかなければならないのだから。

「志保、顔が赤いですよ」
「え」

 確認のためか顔にあてた瞬間、ジャケットのポケットからデジタルカメラを取り出しシャッターを切ります。ボタンを押してからのタイムログが無いのは気にしない事にしましょう。

「あ」
「赤面して顔に手をあてている志保を撮らせてもらいました」
「な、なっ!」
「今あったことを忘れなければこの画像は桜の手の下へ向かう事になりますが……」
「あれ、今ここで何かあったか」
「何もありませんでしたよ」

 さて、私は幸せになろう。
 幸せになって、不必要なくらい幸せになって、幸せを分ける事が出来るようになろう。




















 でも画像は桜に渡す事にしよう。
 だって、マスターだし。










あとがけ

4000Hit達成のリクエストSSデス!
何、ちょっとシリアスはいってますけど自分。と突っ込みたくなるような作品。
まさかこんなにライダーSSが難しいとは思わなかった。
でも個人的に結構上手くいった方。今後ともリクエストカモンデス。