26000hitを踏み、あまつさえリクエストしてしまったアール伯へ捧ぐ。


















Please Help!




























 閃く銀光が俺の肩を掠める。
 一体目の前の人間は何者なのか。いや、そもそも、人間なのか?



―――――頭の中で思考が回る。ぐるりぐるりと渦を巻く。



 一人、見知らぬ制服を着た少女が目の前に立ち塞がる。時は深夜、街灯が照らす灯りの中、女の子は何処か不安そうな表情で仁王立ちになっていた。理解できない、何故こんな夜中に一人出歩いているのか。
 そして、突然俺に襲い掛かってきたのかを。

「何者、なんだ」

 それだけ、言葉を紡ぐ事が出来た。女の子に緊張感は無い。あるのは、何処か渇望した色の瞳と、驚きの色を宿したその顔。
 ツインテールの髪が揺れる。

「あなたこそ、何なの?」

 年頃の女の子らしい、声。これが夜道に突然襲い掛かってくるような人間の声なのか、と自分に問い掛ける。
 しかし、先程起こった事は見過ごしてはならない事であった。突然、背後からの奇襲、気配に気付き咄嗟に伏せていなければ間違いなく叩き伏せられていただろう。余り鍛えられているとも思えない、あの細腕で。
 信じられない。魔力の類は特にこれといったものが感じられない。なのに、あの女の子の攻撃には生命の危険を感じた。

「俺は衛宮志保」
「ふぅん、私は弓塚さつき」

 名前を名乗り合う。突然襲い掛かってきたわりに、話は通じるかもしれない。

「突然襲ってくるのは、酷いんじゃないか?」

 一番に、何故かそんな言葉が口から出た。それは恐らく俺の本心から出た一言だろう。
 だっていきなり背後からどかーんで死んでしまったら、何て言うか、あんまりじゃないか。女の子はどういうつもりなのか俯いて呟く。

「ごめんなさい」

 素直な謝罪の言葉。しかし、その言葉は、何か俺の思っている謝罪と決定的に種類が違うような気がした。
















「ごめんなさい。我慢、出来ないや」




















 女の子が、跳んだ。その一言は本当に苦しそうに、だけど、何処か愉悦を含んだ奇妙な一言。
 馬鹿正直に正面から突進してくるその速さは、明らかに人間のものではなかった。左腕が前方に出て、右腕が振り下ろされるのを楽しみにするかのように、振り上げられる。
 只只単純な破壊を目的とした突進。少しでも触れてしまえば吹き飛ばされると思えるその迫力。



―――――避けなければ、死ぬ。



 死んだら遠坂に怒られる。死んだら桜に泣かれてしまう。死んだらセイバーも悲しむかもしれない。死んだら、イリヤが、俺を助けてくれているこの体が、報われない。
 咄嗟に地面を蹴り右へと身を投げ出す。俺は死ぬわけにはいかない。もう、死ぬわけにはいかない。

 爆音。

 その音は、バーサーカーの一撃を思い出させた。
 アスファルトが爆ぜている。その中心に、瞳を赤く曇らせた女の子がいた。

「あなたの、血が、欲しいの」

 虚ろな声でそう語る。そして、その言葉から遠坂が言っていた事を思い出した。
 この世には、吸血鬼がいる。詳しい事は分からないが、死徒と真徒という種別分けされた吸血鬼と呼ばれる種族が存在するという。俺が知っている吸血鬼の事は、世間一般と同じ、人の血を啜り人ならざるものを作り出すという事。また、白木の杭やにんにく等はあまり効果が無いという事。
 その吸血鬼ごとに特徴、特性はあるが、ほとんどのモノが人類を超越した運動能力を持っているという事。

「君は、吸血鬼か」

 その赤い瞳がきょとんと見開かれ、口の端が徐々に持ち上がっていく。
 ずぼり。音を立てて右腕がアスファルトから引き抜かれた。

「そうだよ。最初はちょっと吸うだけで殺さないと思ったけど、そんな事を知ってるし、普通の人じゃないんだ。通りでとっても、美味しそうだと思った」

 投影、開始。
 手に現るは一対の短剣。陽剣干将陰剣莫耶。もっともイメージしやすいそのカタチ。
 現在場所は大きく開けた交差点。今の爆音に気付く者は無し。戦うには充分な地形。

「へぇ、凄いね。あなたこそ、何者なの?」

 素直に感心したような声色。恐らく本当に心から感心しているのだろう。
 なのに、何で、何で俺と同じくらいの女の子が、吸血鬼なんてやってるんだよ。姿だけが若いのかもしれない。その制服だって酔狂かもしれない。
 だけど、正義の味方はそれが許せなかった。

「俺は、正義の味方だ」

 途端、女の子の瞳が大きく開いた。馬鹿馬鹿しいと思ったのだろう、しかし、俺は正義の味方なのだ。
 雰囲気が、重い。いや、女の子の体からいずるその力が、憎しみを訴えているのだ。

「正義の味方、正義の味方、私だけの、正義の味方。なのに助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった。助けてくれなかった癖にっ!」

 最後の言葉と共に、再び女の子は地を駆る。何の防御も無い只攻撃のみを考えた突進。しかし、防御も何も考えないが故に、攻撃に特化したその前傾姿勢。

 その姿は何処か狂っていて。
 その姿は何処か悲しくて。

 俺は避けれなかった。否、俺は避けなかった。
 そんなに苦しいのであれば、俺が少しでも引き受けよう。その憎しみを込めた一撃を、俺の全力をもって迎え撃とう。

「 I am the bone of my sword 」
「助けて、くれなかった!」

 瞬時にいくつもの宝剣を投影する。頭の奥がずきりと痛む。ずきりずきりと痛みは叫ぶが、きっと、女の子はもっと痛いのだろう。
 防御など、しない。

 振り下ろされる右腕。折り重なった宝剣。干将莫耶を投擲する。






 デュランダルが砕かれる。只の素手に、砕かれる。瞬時の投影で強度等が落ちたとは言え、その力は異常。一体あの小さな腕にどれほどの心が込められたものか。

 ブルトガングが弾かれる。左腕が翻り、掻き分けるように剣の網を解きほどこうと。

 アスカロンが弾け飛ぶ。次々に繰り出される両の腕、その速度は目では捉えきれぬ。

 ミストルティンが折り散らばる。その両腕はもう血に染まっていた。

 ガラティンが投げ捨てられる。手の平に刃が食い込むのも気にせずに。

 ドラグヴェンデルが宙を舞う。ついにはその軌跡すら見えず。






 振り回される両腕、耳が痛いほどの、叫び声。さながらそれは竜巻のようで、名のある名剣魔剣宝剣を次々と折り、弾き、叩き割り、その網を引き千切っていく。
 その網が千切れるのに比例して、女の子の腕も引きちぎられていく。無残にもぼろぼろになる両腕など気にしていないのか、その竜巻はついに竜を捕らえんとする網の目を突き破った。

 両目には涙を溜め、心からの泣き声を口にしながら、血に染まった右腕が咆哮する。










―――――その気持ちは、俺が受け止めよう。










 俺の手にあるは伝説の聖剣、大切な人の手にあった、あの、聖剣。





「嘘吐きっ!」





 聖剣と只の拳が、交差した。






















‡‡‡‡‡‡






















 今日は、気持ち良く眠れそうだ。遠出してきた甲斐があったかな。
 確かに怪我は痛いけど、心は綺麗に晴れている。そう、例えば、今まで何も無かった胸の中に一輪の花が咲いたような幸福感。

 それにしても、凄い人だったなぁ。
 シオンから魔術師のことは大体聞いてたけど、まさかあんなに強いとは思わなかったなぁ。
 まだ少し興奮してる。あんなに美味しそうな匂いの人は初めて見たかもしれない。

 あはは、でも、結局一滴も飲めなかった。
 まぁ、いいかって思える自分にびっくりする。





 今日は、気持ちよく眠れそうだ。遠出してきた甲斐があったかな。

















 シオンにも土産話が出来たし、早く帰ろう。
 あんな変な魔術を使う人がいるなんて言ったら、シオン、驚くだろうなぁ。
















後駆け : ハイ、戦闘モノSSとのリクエストでしたー。
 え? こんなの戦闘モノじゃないって? ただ月姫とのクロスを匂わせてるだけだって?
 ハハハハハハハハHAHAHAHAHAHAHAHA、笑って許して。